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東京高等裁判所 昭和34年(う)987号 判決 1962年12月26日

主文

本件各控訴はいずれもこれを棄却する。

当審における訴訟費用(証人嶋田信に支給分)は被告人河村豊の負担とする。

理由

本件控訴の趣意は、被告人津野田の弁護人森鋼平名義、被告人武井の弁護人三根谷実蔵、同中村忠純、同千葉清雄の共同作成名義、被告人河村の弁護人布山富章、同松本英夫、同高山盛雄の共同作成名義、被告人上杉、同永井の弁護人中村梅吉、同榎本精一、同高桑瀞の共同作成名義の各控訴趣意書並びに被告人武井名義の上申書にそれぞれ記載せられているとおりであるから、いずれもここにこれを引用する。

被告人津野田の弁護人森鋼平の控訴趣意について。

しかしながら、原判決挙示の証拠に徴すれば、原判示犯罪事実は優にその証明ありとするに足り、所論に徴し記録を精査検討しても、原判決には判決に影響を及ぼすことの明らかな事実の誤認があるものとは認められない。所論はなかんずく、被告人津野田は原判示太平化学工業株式会社の設立登記後、株金総額五千万円については、内金三千五百万円に相当する株券を以て旧太平化学工業株式会社の資産一切を買収し、残額千五百万円に相当する株券は現金引換にて売出し、以て右株金総額五千万円は現金を以て払込を受けた場合と同様の効果を得ようと企図していたのであるから、見せ金利用により会社の設立登記をすることを以て資本充実の原則に違反する脱法行為であるという認識も、またかかる脱法行法を敢えてする意図もなかつたと主張するけれども、原判決の認定するところは、要するに、被告人津野田は原判示武井、河村、筒井と共謀の上原判示の如く見せ金利用により払込を仮装し、且つ商法所定の創立総会の手続を経た旨の内容虚偽の創立総会議事録を作成し、これを以て適法に太平化学工業株式会社が設立せられたものとして会社の設立登記を完了しようと企て、ついで、原判示原田清もその情を知つて右共謀に加担し、よつて原田において原判示の如き内容虚偽の登記申請手続を為し、以て本件登記手続を了したというのである。然らば右会社の株金の払込は皆無であつて会社資本は存在せず、また、商法所定の創立総会の手続を経ることもなかつたのであるから、会社の設立は無効であるといわなければならない次第であつて、たとえ被告人津野田が右会社の株金総額五千万円について、会社の設立登記後所論の如き方法を以て現金による払込を受けた場合と同様の効果を得ようと企図していたとしても、本件設立登記の申請に当つて、株金の払込が皆無であるのに拘らず見せ金を利用し株金の払込があつたものの如く仮装したことは相違ないのであるから、被告人津野田等は資本充実の原則に違反する脱法行為を敢えてしたとの非難を免れることはできない。しかのみならず被告人津野田は司法警察員に対して(昭和三十一年五月二十五日付司法警察員に対する供述調書参照)登記所に提出した一切の書類は、河村が筒井や武井と相談の上作つて呉れたのであるが、株式申込、引受等の書類は皆嘘であつて、発起人やその他の者の株式引受も形式的なもので、事実払込があつたわけでもなく、金がなくて一時立替金を金庫から借受けたわけでもなく、その様な契約も全然ないから、株式の引受人にも株式は全然渡していない、後に金を借りた人にその株を全部渡して了つたのであるから商法上からいつて、不注意なことをして了つた次第であつて、これも自分がゲルマニユームの設備資金を他から何とかしたいと思い、色々方法をとつてみたもののいずれも金策ができず、已むを得ず斯様な間違つた方法をとつて了つたので、本当に申しわけがないとの旨供述している位であるから、論旨主張の事実は到底採用するに由なく、結局原判決には所論の如き事実の誤認も法令適用の誤も存しない。論旨は理由がない。

被告人武井の弁護人三根谷実蔵、同中村忠純、同千葉清雄の控訴趣意、被告人河村の弁護人布山富章、同松本英夫、同高山盛雄の控訴趣意第一点及び第二点、並びに被告人武井の控訴趣意(上申書記載のもの)について。

被告人武井、同河村の弁護人は、同被告人等は原判示の如く「見せ金」利用により且つ創立総会の手続を経ることもなく、原判示会社の設立手続を完了しようと共謀したことはない、と各主張するけれども、原判決挙示の証拠なかんずく筒井助右衛門の検察官に対する供述調書(六通)の記載によれば、被告人武井は、被告人津野田及び原審相被告人筒井助右衛門と相謀り、昭和二十八年八月頃よとゲルマニユームの製造を工業化する等の目的のために、旧太平化学工業株式会社の増資又は設立の際発行する株式の株金総額金五千万円の新会社の設立を企て金策に奔走したが、同年十月頃に至るも所期の目的を達することができなかつたので、同被告人等が発起人となり、原判示の如き現物出資による会社の新設を企つるに至り、その頃右筒井は再三被告人河村を訪れ、右計画をはかつたところ、被告人河村は原判示の如く現物出資の方法では早急に新会社を設立することは困難である旨答えたこと、よつて筒井は被告人津野田、同武井にその旨伝え、ここに右三名が種々協議した結果、払込金についての金策は見込みがなく、現物出資も困難であるところから、会社の設立登記を急ぐためには、いわゆる「見せ金」利用による他はないという結論に到達するに至つたので、筒井において改めて被告人河村に対し「見せ金」を以て会社の設立登記方を依頼したところ、被告人河村は金融斡旋業者である原審相被告人原田清の意向を確めた上、筒井とも折衝を重ね且つ被告人津野田、同武井とも面接し、結局同年十一月中旬頃右被告人三名と右筒井との間に原判示の如く「見せ金」利用により株金総額五千万円の太平化学工業株式会社の設立登記手続をしようとの共謀が成立し、ついで被告人河村を介して右原田に対し右の「見せ金」利用による登記手続方を依頼し、原田も右情を知悉して右被告人等の共謀に加担するに至つたこと、しかして右の如く設立登記を為すべきことを共謀すると共に、被告人河村は、筒井を通じ被告人武井等発起人側とも連絡をとり、株式申込証、創立総会議事録、取締役会議事録、調査報告等登記に必要な附属書類を作成した上(但し議事録等には日付を記入しないまま)、前示原田に対し、爾後の手続は一切依頼するという趣旨を以てこれ等書類を交付したことを、それぞれ認めることができる。しからば創立総会議事録は原田において適宜その招集年月日を記入し、これを登記申請書の附属書類として提出すべきことが予定せられていたことが明らかであるから、被告人武井、同河村等の間においては、本件会社の設立登記については、いわゆる「見せ金」利用により、且つ商法所定の創立総会の手続を経ることなくして登記を完了しようとの共謀があつたものと認めなければならない。よつて原判決が被告人武井、同河村が被告人津野田等と原判示の如く共謀した旨認定したことは正当であつて、記録を精査し且つ当審事実取調の結果によつても、これを覆すことはできないから、原判決には所論の如き事実誤認の廉は存在しない。

被告人武井、同河村の弁護人は「見せ金」を以て会社を設立するも、有効な株金の払込であるから会社は成立するものであつて、原判示の如く公正証書の原本に不実の記載をなさしめたことにはならないと主張するも、「見せ金」が原判示の如く、あらかじめ株式払込充当金の貸主に対し、会社設立登記後直ちに払込取扱金融機関より株式払込金を引き出し、これを返済すべきことを約し、且つ貸主のためにこれが不履行のないように法的措置を講じておくものである以上、かような登記完了後直ちに引き出されることが予定せられ会社において会社の資本として使用する可能性が絶無というが如き株金の払込は、実質的には有効な株金の払込があつたものとは認め難く、資本充実の原則に違反するものというべく、会社設立の無効原因となることは原判決も判示するとおりであるから、これを適法に会社が設立せられたものとして会社設立登記を完了することは、公正証書の原本に不実の記載を為さしめた罪に該当することは明らかであつて、原判決には所論の如き法令適用の誤は存しない。

次に、被告人武井の弁護人は、借入金を以て株式払込金に充当した場合、会社の設立登記後、代表取締役が、これを引き出し、擅に借入金の返済に充当したとすれば、右は会社資産を濫りに株式引受人の債務の弁済に充当したものであるから、代表取締役及び之と共謀した者について民事又は刑事上の責任を生ずべきは当然のことながら、これが為に株式払込の効力に消長を来たすものとはいわれないと主張する。しかしながら、所論はいわゆる「見せ金」が株金の払込として法律上有効であることを前提とするものであるけれども、「見せ金」による株金の払込は、有効な株金の払込があつたものとはいわれないことは、前段説明のとおりであるから、所論はこの点において理由がなく採用に値しない。

尚、被告人武井の弁護人は、(一)「見せ金」による払込が有効でないとしても、この場合においても会社の設立に必要な株式の引受は、引受行為によつて既に遂行せられているので、残る問題は資本維持に関するもののみであつて、設立に関する有効無効の問題とは無関係であるといい、被告人河村の弁護人は、(二)株金払込の欠缺があつても、商法第百九十二条の規定により発起人の連帯払込義務が認められているので、設立無効の原因となすことはできないとか、(三)払込取扱金融機関は商法第百八十九条第二項により、その証明した払込金額につき払込なかりしこと、又は、その返還に関する制限を以て会社に対抗することを得ないのであるから、実質上は払込欠缺を補充し得るとか、(四)設立の無効原因となる株金払込の欠缺の程度は、口頭弁論終結の時を基準として判断すべきものであつて、原判決の如く漫然資本充実の原則に違反する脱法行為であつて、会社設立の無効原因となると判断するのは誤であると主張し、原審裁判所の法令の適用を争つているところ、株式払込金は会社の本来の業務活動を為す資本たるべきものであるから、会社設立当時にはこれを存しなければならないことは資本充実の原則に徴し、また、商法第百八十九条第一項の規定の精神から考えても明らかなところであるから、所論の如く会社の設立には株式の引受があれば足るものであつて、株金の払込は必要でないといい得べき筋合でなく、また、所論の如き商法第百九十二条、第百八十九条第二項の各規定が存在するからといつて、所論の如く直ちに株金の払込が皆無であつても、会社の設立が無効にならないものとはいわれない。次に商法第四百二十八条第一項に会社の設立の無効はその成立の日より二年内に訴を以てのみ主張することができる旨の規定があつて、その訴訟において設立の有効、無効の判断の基準日が、所論の如く会社設立の時ではなくして、口頭弁論終結の時であるとしても、右の如き設立無効の訴は私法的法律関係の妥当な処理と取引の安全保護のために存するものであるから、犯人が共謀の上株金の払込が皆無であつて且つ何等商法所定の創立総会の手続をも経ることなく、適法に会社が設立せられたものと仮装して、設立登記手続を了した事犯につき、これが公正証書原本不実記載、同行使の罪に該当するものとして、その刑責を問う刑事手続においては、右法条に準拠すべき事由は存在しないといわなければならない。然らば所論は何れも理由がない。

また被告人河村の弁護人は、被告人河村は原田清に対し多額の金利を支払つて株金の立替払込を依頼したものであつて、立替払込がある以上会社設立の無効を来たす事由は存在しないのであるから、被告人河村には原判示の如き犯意はなかつたと主張するけれども、被告人河村が原田清に対し所論の如く株金の立替払込を依頼したとの事実は、記録並びに当審事実取調の結果に徴しても到底これを認めることはできず、却て被告人河村が被告人津野田等と原判示の如くいわゆる「見せ金」利用による会社設立を共謀したことは、前認定の如くであつて、原田の原判示所為と被告人河村等の犯意との間に一部錯誤の存することは原判決も認めているところであるけれども、その錯誤は本件犯行の故意を阻却するものでないことは、原判決も罪となるべき事実の後段において特に判示しているとおりであつて記録によるもこれを認めることができるから、弁護人の右主張も亦採用し難い。

しかして被告人河村の司法警察員及び検察官に対する各供述調書筒井助右衛門の検察官に対する各供述調書の記載が、所論の如く信憑性に欠けるものとは記録上認め難く、その他所論に徴し記録を精査検討し且つ当審事実取調の結果に徴しても、原判決には判決に影響を及ぼすことの明らかな事実の誤認も、法令適用の誤も存しない。論旨は総べて理由がない。

被告人上杉、同永井の弁護人中村梅吉、同榎本精一、同高桑瀞の控訴趣意第一及び第二について。

所論は、原判示株金保管証明書は帳簿上の操作をした上作成せられた虚偽のものではない。本件の太平化学工業株式会社の株金の払込に充当せられた五千万円は、板橋信用金庫が手形貸付の方法により原審相被告人原田清に融資したものを、原田が同金庫に預金した上、右会社の株金払込保管の別段預金口座に振替えて貸与したものであるから、右会社はこの預金を引き出す権利を取得したものであつて、資本充実の原則は確保せられているとか、被告人上杉、同永井は右会社には株金の払込ありと信じ且つ株金保管証明書を発行すべきものなりとの確信の下にこれを発行したものであつて、原判示の如くことさらに虚偽の証明書を発行する認識はなかつたのであるから、被告人等には犯意がなかつたと主張して、原判決には事実の誤認があるとなし、その理由につき縷述するのである。

按ずるに被告人上杉及び同永井の司法警察員及び検察官に対する各供述調書(但し右各供述調書は当該被告人関係についてのみ証拠とする)の記載に、原判決挙示のその余の証拠なかんずく村沢秀次、竹川きよ、飯塚保(二通)の検察官に対する供述調書の記載を総合すれば、前示原田清は昭和二十八年十二月初旬頃板橋信用金庫の理事長たる被告人上杉及び、同支配人の被告人永井に対し、太平化学工業株式会社の設立に際し発行する株式の総数につき払込むべき五千万円がないから、同額の株金保管証明書一通を作成せられ度き旨依頼したこと、よつて被告人上杉、同永井は共謀の上、右原田に対し、形丈けの担保差入の書面をとり五千万円を帳簿上貸付けた旨記載し、次にこの五千万円を右会社の株式の払込金として同会社の別段預金に振り替えた旨記載し、会社の発起人側より株式引受の申込書等関係書類を受け取り、株式払込台帳の記載を為して株金払込完了の形式を整えた上、右会社発起人代表津野田福太郎宛の金額五千万円の株金保管証明書一通を作成し、これを右原田に交付すること、しかして右は飽く迄も帳簿上の操作に基く内容虚偽の証明書に過ぎず、事実上は貸借も、株金の払込に充当の事実もないけれども株金保管証明書を発行することであるから、万一この預金があるといつて払戻の請求がなされては困るので、この場合に備えて予め右原田より右会社名義の右五千万円の受領証をとつておき、全然払戻請求の方法なきよう構じておくこと等の手続を打合せた上、被告人永井において帳簿上の操作を為して、原判示の株金保管証明書一通の作成手続を了し、ここに右被告等は、これが右会社の設立に当り株金の払込が皆無であるのに拘らず、払込が完了し、会社が適法に成立した旨登記簿原本に虚偽の記入を為さしめるために、設立登記申請手続をするにつき、添付書類として提出せられるものであることを知りながら、これを原田に交付し、よつて原田等の原判示第一の犯行を容易ならしめてこれを幇助したこと、尚被告人上杉、同永井がかかる違法な所為に出でた所以のものは、当時右板橋信用金庫には多額の負債があつて、理事、幹事の全員がその所有の不動産を担保として提供していたので、早急に利益を挙げて不動産の返還を受けることに苦慮していたためであつて、本件に関しては原田より右五千万円に対する二日分の利息名義を以て金四万円(外に裏日歩として金一万円)並びに株金保管証明の手数料名義を以て金二十万円合計二十五万円を受け取つており、当時他にもしばしば本件同様虚偽の株金保管証明書を作成して、これを依頼者に交付し、以て利息、手数料等の名義を以て収益を挙げ、同金庫の経理の好転方に努めていたこと等の事実を認めるに十分であつて、所論の如く右会社は板橋信用金庫から五千万円の預金を引き出す権利を取得したものであつて、資本充実の原則は確保せられているとか、被告人等は虚偽の証明書を発行する認識はなかつた等主張し得べき筋合ではないといわなければならない。(尚この点に関し被告人永井の検察官に対する昭和三十一年六月一日付供述調書によれば、同被告人は株金保管証明書の法律的性質や、右証明書が会社の設立登記手続上有する意義等については職務上知つていて、通称見せ金といつていることは、いわゆる会社の資本充実の原則に違反するものであることは承知していたとの旨供述している位である。)その他記録を精査検討し且つ当審事実取調の結果に徴しても、原判決には所論の如き事実誤認の廉は存しない。論旨は理由がない。

被告人河村の弁護人布山富章、同松本英夫、同高山盛雄の控訴趣意第三点、並びに被告人上杉、同永井の弁護人中村梅吉、同榎本精一、同高桑瀞の控訴趣意第三について。

所論はいずれも、原判決が被告人河村、同上杉、同永井に対し懲役刑を選択して処断したことは重きに過ぎる。右被告人三名に対しては罰金刑を以て処断するを相当とすると主張するけれども、本件の罪質、犯罪の動機、態様、結果に徴すれば、本件の犯情は輙く軽視することは許されない。しかして被告人河村は永年計理士、税理士等の職務に従事し、昭和二十七年頃からは司法書士の資格も取得したものであるから、その職務の性質上、聊も法規遵守の精神に欠くるところがあつてはならないところ、記録に徴すれば、被告人河村は原審相被告人筒井助右衛門等より原判示株金総額五千万円の会社設立につき相談を受けるや、その知識と経験を利用し、本件事犯の中心となつて活動したものであるから、被告人河村の本件所為は甚しく右期待に反するものとして、その犯罪は決して軽くないものといわなければならない。また、被告人上杉、同永井は金融の業務に携つていたので、その業務の公共性に鑑み、職務を適正に運営し、健全なる経済的発展に貢献するための努力をなすべきであつたのに拘らず、同被告人等の為すところは右の職務上の義務に著しく背反するものであつて、(所論は被告人永井は本件株金保管証明書の発行は適法なものと信じていて違法の認識はなかつたとの旨主張するけれども、その理由のないことは、同被告人の弁護人中村梅吉外二名の控訴趣意第一及び第二について示した前記判断に照らせば、自ら明らかであるから、右の主張は採用しがたい)、しかも被告人上杉、同永井は、他にも本件同様の方法を以て株金保管証明書を発行した事例が数多く存することは前示の如くであるから(いずれも司法警察員に対し、被告人上杉は本件以外に五、六回ありと供述し、被告人永井は、原田清関係にて四、五十回、吉田愛子関係にて三、四十回あつて、その金額は合計三億二、三千万円に達する旨供述している)、その罪責が重いことは多言を要しない。これに右被告人三名の経歴その他記録に現われた諸般の情状を総合すると、右被告人三名に対する原判決の科刑はむしろ寛大に過ぎる憾はあつても重過ぎるものということはできない。各所論の被告人等に有利な諸事情を斟酌し、且つ当審事実取調の結果に徴しても、右科刑を軽減し又は罰金刑を以て処断すべき事由があるものとは到底認めることはできない。量刑の不当を主張する各論旨も理由がない。

よつて本件各控訴は、いずれもその理由がないので、刑事訴訟法第三百九十六条に則りいずれも、これを棄却すべく、当審における訴訟費用(証人嶋田信に支給分)は同法第百八十一条第一項本文により被告人河村豊にこれを負担せしめ、主文の如く判決する。

(裁判長判事 三宅富士郎 判事 東亮明 井波七郎)

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